こうじマガジンNO.118(2006.4.6)  

「知事後援会の政治資金規正法違反事件について」

最近、ニュースや新聞でも頻繁に取り上げられ話題となっている、「知事後援会の政治
資金規正法違反事件」について、これまでの経過と今後の展開についてまとめてみま
した。

1. 捜査の端緒

 この事件は、2005年11月28日夜、広島県の藤田 雄山知事の個人後援会が、2003年12月に会費2万円で開催したパーティー収入を過少に報告したとして、広島地方検察庁が政治資金規正法違反容疑で強制捜査に着手したことから始まった。

 我々議員にとっても全く「寝耳に水」といった状態で、強制捜査の当日は福山市で平 浩介県議の副議長就任パーティーが開催されており、私もそちらに出席していた。知事も機嫌よく来賓としてのあいさつをし、その後も会場で参加者と楽しく歓談していたので、想定外の出来事であったろう。知事選挙の投開票日が11月6日だったことを考えると、この事件の捜査の端緒は、選挙戦の前からだったとも考えられる。

 どういう経緯で捜査に着手することに至ったのか、第三者からの告発や内部告発があったのか、なぜ知事選後の強制捜査なのか、公判中の今では知る由もないが、興味あるポイントである。さらに翌日の11月29日は、広島県議会普通会計決算特別委員会の総括審査(知事も出席)の日であり、この事件に関して知事が議会で答弁する最初の機会となった。

2. 後援会事務局長の逮捕
 
 木原 正則容疑者が政治資金規正法違反(虚偽記載)容疑で広島地検特別刑事部に逮捕されたのは12月9日である。この日はちょうど12月定例県議会が開会中であり、逮捕の日から週が明けて12日に、私も本会議で一般質問に立つ機会があった。

 「司法当局において、真相は早晩明らかにされると思うが,知事自身の関与の有無,また,県民の信頼回復に向けての決意を改めて伺う。」と、この事件について知事に問いただしたところ、知事の答弁は、「12月9日,司法当局により,講演会の事務局長が政治資金収支報告書の虚偽記載の疑いで逮捕されたことは,非常に遺憾であります。このことにつきましては、私自身が関与した事実はございませんが、県民の皆様の政治不信を招いたことにつきまして,私自身,重く受け止めております。当面は,司法当局の操作の推移を見守らざるを得ないと存じますが,事実が判明した時点で,私から県民の皆様にご説明申し上げる所存でございます。 今後,一日も早い県民の皆様の信頼回復に向けて,真摯に努力して参りたいと考えております。」というものであった。

 この時点では、自らの関与を否定し、「非常に遺憾」というコメントを繰り返していた。12月28日県庁の仕事納めの日に、木原被告は起訴されたが、証拠隠滅の恐れがある、という理由で、保釈はされることはなかった。年が明けて、さらなる逮捕者も出る、という噂も流れたが、それはなく、「木原被告の公判が始まるので、そのことを待って説明責任を果たす」という態度で、2月20日の公判を迎えることになる。ちなみに、この日は2月定例県議会開会日の前日である。

3. 公判

 公判における検察側の公訴事実は、(1)2003年12月に開催された知事の政治資金パーティに関わる収支報告書(藤田雄山後援会)に、「実際は少なくとも8608万9377円の本年収入があったにもかかわらず、5005万5007円の本年収入があった旨虚偽の記入をし、これを同年2月9日、同選挙管理委員会に提出した」ということ(差額は3604万円)と、(2)平成13年から17年にかけ、企業献金の受け皿となっていた「自由民主党広島県藤友支部」の収支報告書の寄付欄に、4693万円の虚偽記載を行った、という2点である(合計で8297万円)。罪名は政治資金規正法違反である。これに続く罪状認否で、木原被告人はこの事実を全面的に認めた。

 しかし問題なのは、その後に行われた検察側の冒頭陳述である。公訴事実自体はお金の入りの部分のものであるが、この冒頭陳述では出の部分、つまりこれらの虚偽記載で得た裏金を何に使ったのか、という点での陳述が含まれていた。問題となる部分を列挙してみると、「平成5年の知事選以降、毎回の知事選において、県内の各種議員等へ対策費と称して現金を支払う」、「業界団体の所属企業関係者に対し、受注実績等から一方的に購入枚数を割り振るなどした」、といった部分である。裏金が議員に渡っていたことが事実とすれば、これは買収罪、公職選挙法違反事件であり、連座制の適用もある重い事件となる。また我々県議会にも疑惑の目が向けられるということで、この真相の究明をめぐって2月定例県議会は紛糾することになる。

4. 2月定例県議会

 2月27日から始まった代表質問、一般質問でも、この問題についての質疑がおこなわれた。焦点は、保釈された木原被告人と知事との接触の中で、新たな事実が明らかになるのか、という点と、議会への対策費について、県議会としてどう調査し、真相究明を図るのか、という点である。1点目については、木原被告人はいっさいの証言を拒否している、ということで進展はなかった。2点目に関しては、議会内の対立構造(議長派・反議長派)が影響し、なかなか結論が出なかったが、議長の諮問機関として、副議長を座長に調査会を設置することで解決が図られたが、反議長派はこれに反発し、独自の調査研究会を立ち上げることになる。

 さらに、定例会は提出議案の部局別審査に移り、常任委員会での審議が始まった。ここでもこの事件をめぐり、反議長派(自民会27人、県民同志会2人、県政会1人、如水会1人)は18年度予算案の採決に際して、「今回の知事後援会の事件の真相が明らかになるまでは、予算案に対して公正な審議ができない」として採決前に退席するという異例の事態となった。

 3月14日からは、予算特別委員会の総括審査が始まったが、ここでも反議長派の質問は知事後援会の事件に集中している。そして3月22日の閉会日を迎える。いつもなら各常任委員長、予算特別委員長の審議結果及び経過の報告の後、粛々と議決をしていくが、今回はこれらとは他に決議案が3件提出され、それらの上程に関わる調整や手続きで、10時半開会予定は大幅にずれ込み、午後3時半の開会となった。問題の決議案3件とは、自民会などが提出した調査特別委員会の設置決議案、自民刷新会などが提出した調査会設置決議案、そして自民会などが提出した知事への辞職勧告決議案だ。調査会を特別委員会にするか、議長の諮問機関にするか、というのが前2案の違いだが、私は「とにかく早急に調査に着手すべきであり、特別委員会にするのはそれからでもいい」と考えているし、この問題は議会内の議長派、反議長派の対立が根にあり、肝心の調査の着手が延び延びになっていることこそ問題だと思う。単なる主導権争いが根にある問題だ。

 大切なのは知事への辞職勧告決議案のほうで、35対32で案自体は否決されたが、県議会の半数近い議員が藤田知事にノーを突きつけたというのは大変な事態である。ただ、知事と議会の関係というのは、どちらも住民による直接選挙で選ばれており、本人が自ら辞める場合以外は、知事にやめろ、というのは議会でなく住民であるべきだ。ここは国の議員内閣制とは大きく異なる点で、議員が知事に辞職を勧告するというのは、地方自治法では想定していないことだ。

 ただ、地方自治法には「議会の不信任議決と長の処置」(第178条)の定めがある。「議会において、長の不信任の議決をしたときは、その通知を受けた日から10日以内に議会を解散することができる。前項の期間内に議会を解散しないとき、又はその解散後初めて召集された議会(解散後選挙を経た議会という意味)において再び不信任の議決があり、議長から長に対しその旨の通知があったときは、長は同項の期間が経過した日又は議長から通知があった日においてその職を失う」とある。最近では長野県の田中知事の例があるが、大事なことは第3項で、「不信任の議決については、議員数の3分の2以上のものが出席し、その4分の3以上のものの同意がなければならない」という点だ。議会議員は解散覚悟で、不信任案を可決しなければならないこと、さらにその成立には4分の3の同意がいるというハードルは非常に高いものがある。つまり地方自治法は議会の側から知事を解任する、ということには厳しい縛りを加えているということだ。そういう意味では、知事への辞職勧告というのは法的拘束力のない、単なる意見表明ということになる。長野県の田中知事の場合のように、政策における対立とは違って、今回の自民会の辞職勧告決議案提出の理由は、「県政の信頼の失墜と県政の停滞を招いた道義的、政治的責任は免れがたい」としている。これは県民への注意喚起というか、アピールというか、いずれにしてもこの辞職勧告決議案に賛成した32人は、これからの県政運営にどのように臨んでいくのか、県議会は波乱含みだ。

 私自身は知事の真相解明への努力は十分だ、とは思っていない。また一方で、これ以上の逮捕者が出たり、「対策費」の事実が立証されたりすれば、当然知事は自ら辞職すべきだと思う。さらなる捜査の進展や、第2回公判期日での検察側の主張など、まだまだこの問題は尾を引いていくだろう。

5. 今後の展開

 最後に、今後の展開について考えられるシナリオを示してみたい。
 (1)2月定例県議会閉会日(3月22日)後、検察側の新たな動きがあり、冒頭陳述で指摘された「各種議員への対策費」の容疑で、さらなる逮捕者が県議会からも出る。

 こうした展開になると、公職選挙法違反事件であり、連座制の適用の可能性も含め、知事の進退は非常に微妙な問題となる。また議会側も、今回事件に関して逮捕者が出るという事態になれば、その対応は全容の解明とともに微妙な問題となる。逮捕者が多数にのぼるなど、異例の事態となれば、住民からの解散請求(地方自治法第76条)の可能性や、地方公共団体の議会の解散に関する特例法(第1条 @地方公共団体の議会は、当該議会の解散の議決をすることができる。 A前項の規定による解散の議決については、議員数の四分の三以上の者が出席し、その五分の四以上の者の同意がなければならない。B第一項の議決があつたときは、当該地方公共団体の議会は、その時において解散するものとする。)の規定により、自ら解散して県民の信を問う、という選択肢も浮上してくる。

 (2)検察側の具体的な動きはこれ以上なく、木原被告人の公判も予定通り、4月13日に第2回公判・結審、5月中旬に判決が下り、この事件自体は一応の収束を見る。
この場合も判決が下された後、検察側の調書や問題となった冒頭陳述の証拠等、あるいは訴訟記録といった書類の閲覧を通じて、事件の全容解明への努力は続けられるであろう。しかし、既にこの閲覧内容自体、法律上、相当の制限がある、ということが言われており、真相の解明にいたるかどうかは微妙だ。ただ、6月県議会に向けて議会内に知事不信任案提出の動きが起こり、議会構成人事とも絡んで6月定例会が混乱する。こうした事態を受けて、県政運営に知事自身が自信をなくす、ということも考えられる。

 大きくはこの2つのシナリオが考えられる。いずれも検察側が今後どう動くか、が大きなポイントであることは間違いない。数々の問題を示唆した冒頭陳述は、確たる証拠があってのことだ、という見方と、単なる意見表明に過ぎないという見方が混在している。私は前述したように、この事件の進展が議会日程と微妙に絡めて、進んできているという点にも注目している。いずれにせよ、県政を揺るがす大きな爆弾を抱えての県政運営はしばらく続く。

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